SOUTH PARKの住人

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『おくりびと』に感じる不快感と、それでも観ちゃう理由

Netflixで『おくりびと』を観返したのでレビュー。(一応ネタバレあります)


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現時点で邦画で唯一「アカデミー賞外国語映画賞」を受賞した偉大な作品ではあるが、好きか嫌いかで言ったらあまり好きではない部類なのです。なぜかというと、納棺師という職業に対する差別描写が非常に短絡的で、そのやり口が終始鼻につくから。

本当に納棺師が世間から差別的に見られてるかどうかなんて、ほとんどの人からはピンとこないじゃないですか。これって前の記事で取り上げた、道徳の教科書のゴミ回収作業員の話と一緒で、差別問題を提起しておきながらも上からの目線で語ることでさらなる分断を助長しているんだと思うんですよ。もしかしたら昭和で田舎な価値観では、人の死を扱うことは穢れ仕事だという認識が今も残ってるかもしれないけど、多様化した現代的な考えだとそれってすごくニッチな発想だと思うわけで。この辺って描くならそれ相応の説得力を持たせないと問題提起自体が詭弁に見えちゃうし、もっと取り扱う側が配慮しなくちゃいけない問題だと思うんですよね。

 

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おくりびと』に関しては、広末の「汚らわしいっ!」発言からも見て取れるが、「実は納棺師って素晴らしい仕事なんですよ」という主張をしたいがために、敢えて露骨に卑下して描くという、ただの脚本の都合によるフリに成り下がってるんですよね。

なんかディザスタームービーとかでありがちな、無残に死ぬキャラクターが「実は不倫してた」みたいな設定をつけて観客に対して「こいつは死んでもしょうがないキャラですよ」みたいな言い訳をしてくるのと似ている。観客を馬鹿にしたような安っぽさというか、感情を操作してくるようなやり口はどうも嫌い。要は偽善的なところが見え透いているという話。

で、この件って最近観た『ファルコン&ウィンターソルジャー』でも感じたのです。詳細は別記事でまた感想を上げますが、何か問題を訴えるときに、反対側にあるモノをいちいち貶める必要があるのか?という。こういう見せ方って、ある意味すぐ二元論で白か黒かを語りたがる現代的な嫌らしい発想だと思うのです。

あと、ニューハーフの遺体を女性として納棺するか男性もして納棺するかみたいな場面。本人の意思が無くなった状態で、遺体を男として扱うか女として扱うかっていう着眼点は興味深く、当人の父親が「どんな姿でもあいつはやっぱり俺の子だ」って嘆く姿は非常に泣けるのだが…。そのニューハーフの遺体役を演じてるのが女性なんですよ。それってどうなのよっていう。息子が女性として生きることを選んだとしても自分の子には変わりない、というメッセージを込めておきながら、女性にその役をやらせるのはナンセンスすぎるだろう。「この子はニューハーフでも綺麗だからOKだよね」っていう偏見に満ちたルッキズム精神を感じたし、何より浅い認識でこういうテーマを取り上げようとする製作側の姿勢に嫌悪感を抱きました。

あと、都会の納棺業者の人をやたらと露悪的に描く場面とかも激しく不愉快でしたね。もっくんとは対照的にすごく事務的で雑な感じに描かれてて、ここにも差別的な思想を感じました。主人公としてのもっくんを上げたいからって周りを下げる必要あるか?仮にも前半で納棺師に対する差別問題を取り扱っておきながら。

しかも業者に対しての広末の「夫は納棺師なんです(ニッコリ)」という発言も、何様だオメェと。「汚らわしい!」とか言ってたくせに、多少の紆余曲折を経ただけでもうこっち側にいる気になってるところがマジで腹立った。

 

ただここまで言っておきながら、おくりびと』が大嫌いかというとそうでもなくて…。言うてトータルで4回くらいは観てるんですよね。

特に毎回泣くポイントがあって、クライマックスでもっくんが生き別れの父親を納棺する場面、父親役が峰岸徹なんですよね。すげえメタ的に見るけど、峰岸徹って自分の中じゃまだ亡くなってる感じがしてなくて、元気な頃の文学座の偉いさんのイメージしかないので、『おくりびと』を見るたびに、「あぁ、峰岸さんって亡くなったんだな…」としみじみ涙するのです。

あと舞台が山形県なんだけど、この土地の雰囲気が大好きでね。東北に3年くらい住んでた身としては、この田舎のヒンヤリした空気感が良くて。特に鳥海山の美しさが見事。鳥海山って山形側から見るか秋田側から見るかで全然雰囲気が違うんですが、山形側って本当に富士山が連なっているかのような雄大さで素晴らしい。

久石譲の手掛けるチェロ演奏のテーマ曲もその辺の感動オサセ映画と違ってちゃんと品があって。もう流れてくるたけで泣いちゃうし。


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このブログの駄文もこの曲を聴きながら読めば違って見えるかもしれない。

 

ということで本作は、不快度指数の極めて高い脚本を、素晴らしい音楽と景色と俳優でコーティングしている秀作であるいう結論に至りました。アカデミー賞取ったんだから今回こそは傑作に見えるはず…!と思いながら4回観たけどあんまり変わらず。(むしろ粗は毎回見つけてしまう…)

 

ちなみにアカデミー賞を取った件ですが、あの時ノミネートされてた作品がどれも陰気で戦争モノだったので受賞もあるかなとは思ってた。たしか有力視されてたのが『戦場でワルツを』だったんだけど、当時の情勢がイラク戦争真っ只中で、「もう暗い映画は見たくない」って雰囲気が少しあって、票が割れそうだなーとは思ってた。あと壇上に上がった広末涼子は可愛かったね。なんせ自分は広末世代なんで憎みきれません。

 

 アマプラでもネトフリでも観れます。

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  • 発売日: 2016/07/16
  • メディア: Prime Video
 

 この映画の広末は大嫌いですが、基本的には


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