SOUTH PARKの住人

1日1記事毎日更新!(という目標) 映画好きです。

映画レビュー『BLUE/ブルー』

先日の宣言通り、映画『BLUE/ブルー』観てきました

 

※ネタバレ大いにあり

 

southparks.hatenablog.com

 

 

 

最終日のレイトショーに飛び込んできた。むっちゃ泣きました。

 

自分の境遇とか精神性に響きまくって、全ての描写がザックザク心に刺さってしまった。ボクシング関連の作品ってだいたいルーザーたちの足掻く姿が描かれるけど、本作はその描写極まれりという感じ。負け側の人間として観ると辛いんだけど、こういうのが観たかったんだよという側面もある。

つくづく、ボクシングってのは厳しい世界だなと。たとえチャンピオンになったとしても食っていけないと言われているスポーツで、夢と人生を天秤にかけることに釣り合いが取れてない。野球とかって頂点まで上り詰めたら成功が約束されるわけじゃないですか。(もちろん野球だってほんの一握りだし、甲子園のスターがプロになったとして将来が約束されるわけではないので厳しい世界ですが) それでもボクシングって網膜剥離やら脳梗塞やら人生の棒に振る可能性だってあって、練習中でも人が死ぬことだってままあって、ワールドチャンプになっても1回負けたら引退に追い込まれるような世界。本当に命と引き換えにプライドと勝利を勝ち取るスポーツだよなぁと。

 

自分も、朝井リョウ著『何者』みたいな作品が刺さりまくる人間なので、常に自分の居場所を探しては見つからないというような奴でして。自分が何を目指したらいいかもわからない「夢を持たざる者」なのです。だからこそ、いつも俺みたいな凡人は「もし自分が何かに打ち込んでいたら・・・」というifを常に考えちゃうんですよね。本作の瓜田を見ていると、もし自分がボクシングという道を選んでいたらとか考えてしまい、胸が詰まる思いでした。まあ殴られるの嫌なので選ばなかったと思いますけども。(弱気)

とにかく本作についての想いを全て書くと5万文字あっても足らなそうなので、瓜田(松山ケンイチ)と小川(東出昌大)の関係性だけに焦点を合わせて感想を書きます。

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『ロッキー』も『クリード』も『一歩』も『ジョー』も、基本的にはボクサーが夢見てるかっこいいボクサー像を描いている。もちろん挫折や苦悩もたくさん描かれているけど、その先に掴んだ栄光という希望を中心に据えてるんですよ。だって普通はそれが観たいし。

でも実際はこの映画に登場する瓜田ような、自分の信じたものに打ち込んだ先には何もなかったという人間も実際にはたくさんいる。基本を積み重ねてプロボクサーにはなったものの、その先で勝つことはできない。ボクシングには相手を打ち倒したら勝ちという明確な目的がある。瓜田は勝てなかった。基本的にボクサーは4敗したらもう引退と言われている。瓜田は10敗以上している。

 

瓜田は成功弱者だ。どれだけ打ち込んでも何も勝ち得ることができていない。ボクシングでも、恋愛でも、彼が勝ち取ったものは無い。どれだけ周囲に信頼されていても、努力する才能があったとしても、彼は何も持っていない。人生というのは最終的に勝利を勝ち取ったものが勝者なのだ。そんなことは瓜田はわかりきっていて、自分が強くないことも、愛する人に自分の想いを伝えられない弱さも、全て悟っている。それでも信じられるものは「ボクシングが好き」という想いだけだ。ある意味それは呪縛として瓜田を苦しめている。

それでも初めて瓜田が試合に勝ったときは、「周囲に自慢したりして本当に嬉しそうだった」と小川が語っている。当たり前だが、瓜田だって本質的には勝ちたい人間なんですよね。たぶんそのわずかな成功体験が支えになっている。だからこそ、その想いが成就しない中、周りが成功していく姿を見る辛さは計り知れないし、共感しちゃって辛かった・・・。

 

瓜田は徹底的に優しい性格をしている。どれだけプライドをへし折られるような罵詈雑言を浴びせられても、相手を否定することはない。「その通りなんだけどね」「わかってるんだけどね」と、常に言葉をはぐらかす。もう瓜田の中では周囲に指摘されるようなことは何百回、何千回も頭の中を逡巡して、答えが出ているのだ。「自分がボクサーとして決定的に弱い」「この道の先には何もない」と。

そもそもボクシングとは自分の名誉や成功というエゴのために、いかに相手を暴力で打ち伏すかという競技だ。おそらく優しい人間には向いていない。時には自分のわがままのために相手を傷つけることも厭わないような性格じゃないと大成できないのだ。f:id:southparks:20210507164429j:image

(最後に物を言うのは相手を殺してでも勝つという狂気性なのだ・・・)

ボーイズ・オン・ザ・ラン』4巻より

 

瓜田は作中何度も「基本に忠実に」と言う。基本さえ積めばプロにはなれる。だが勝者になれるとは限らないのが勝負の世界だ。これはもう一人の主人公である楢崎(柄本時生)のエピソードでも語られる。奇しくもこれは恋愛でも同じで、どれだけ「優しくて」好意を持たれていても、結ばれるわけではない。

 

本作の瓜田と小川は対照的に描かれている。小川は典型的なパンチドランカーで、明らかにドクターストップがかけられるような深刻な病状でもそれを認めようとしない。彼女にも迷惑をかけまくっているが、とにかく強情で自分がチャンプになるためにはどれだけ周りを傷つけてもいいという精神である。自分を省みることがない。だからこそボクサーとして強いとも言える。ただ、そんな小川でも、それでも唯一絶対的な敬意を持ち続ける対象が瓜田なのだ。

 

この映画が憎いところが、この瓜田と小川の関係性である。作劇上の立場で言えば、成功と挫折、勝者と敗者、千佳(木村文乃)を愛する者という、瓜田と小川はライバル関係である。が、本作でのこの2人の関係はそういう単純な構造に収まっていない。ここが本作のミソである。

 

まず、小川の瓜田への敬意はどんなことがあっても揺るがないのだ。「勝ったら千佳と結婚しようと思ってます、俺勝っちゃっていいですか」って本心をぶつける場面がある。

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宣戦布告じゃあああああああああ(;'∀')

って普通だったら思うんだけど、実はそうじゃない。これ小川的にはただ筋を通しているだけなのだ。2人でボクサーとしての半生を歩んできた中で、図らずも瓜田を踏み台にしてきてしまったという自負があるんですよ。(予告編だとまるでザ・三角関係みたいな見せ方をしてるけど違う)

これは「瓜田さんが本当に千佳が好きならその気持ちを尊重します(譲ってもいい)」っていう宣言だと思うんですよね。そもそも瓜田がボクシングを始めた理由が、千佳に言われたからなんですよ。しかし千佳はそれを覚えてなくて(辛い・・・)、たぶん小川もその件までは知らないと思う。

それでも小川が義理を通そうとする理由は、これはたぶんボクシングを通じて瓜田に心から恩義を感じているからなんですよ。このシーンは後の「お前が負ければいいと思ってた」という想いを吐露させる場面に繋がってるんだけど。恋愛も凌駕するボクシングへの想いの強さって小川にとってはとてつもないことなんですよね。そこが瓜田に足向けて寝れないような、絶対的恩義を感じてる理由なんだろうなと

 

映画の描写的にも、どう考えても瓜田と千佳の方がお似合いカップルじゃないですか。たぶんこの2人が結ばれた方が本当に幸せになれるんだと思う。瓜田の性格はどう考えてもボクサー向きじゃないし、千佳に言われなければなってなかったと思う。何敗してもボクシングを続けるのはそれだけ瓜田が千佳のことが好きという表れでもあるんですが、それでも瓜田は身を引くんですよね。瓜田の心情の詳細は語られないけど、個人的には、「弱い俺が千佳を愛する資格など無い」っていう不器用な性格も見え隠れしちゃって。

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予告編でも観れるけどこのバンテージ巻きプレイのシーン。

「(ボクサーになったことを)後悔してる?」と千佳に聞かれた瓜田が、

「後悔なんてしてないよ、でも・・・・・・・『でも』じゃないか」と答える場面。

 

「後悔してる?」じゃねえよ!そもそもお前がけしかけたのに覚えてないのかよ!(´゚д゚`)

って千佳に対して若干苛立ちを覚えつつも、「でも・・・」の先の言葉を飲み込む瓜田の優しさに号泣するのでした。(苛立ちを覚えてしまった俺の器の小ささ嫌気が差しつつ)

 

で、前述した、小川がチャンプになった日。瓜田が小川に「ずっとお前が負けることを祈ってた」と吐露する場面がこの映画の白眉だと思うのだけど、ここの描写があまりに凄すぎて息を呑みました。その告白に対して小川の「大丈夫です、わかってたんで」と涙を堪えながら言う表情も。

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東出昌大の涙を堪える演技は『桐島、部活やめるってよ』でも至高であった。

 

小川は瓜田が自分に対しての嫉妬心を抱えていたことはわかってたが、決して表には出さなかった。むしろその想いを押し殺してまで、自分のチャンピオンロードのために身を削ってサポートしてくれていた。その優しさに甘えていたことを常に罪悪感として抱いていて、それが瓜田への敬意として表れていたんですよね。瓜田に導かれてボクシングの世界に入り成功を収め、瓜田の幼馴染である千佳を(結果的に)奪ってしまったような形になった。人間なら、男なら、悪意を感じないわけがない。それでも瓜田は本気で手を差し伸べてきた。小川から見たら瓜田はもはや聖人なのだ。自分をどれだけ犠牲にしても、文句の一つも言わず、ただ真摯にボクシングに向き合っている。小川が絶対に持っていない、自己犠牲の精神を瓜田は持っている。でもその優しさは、ボクシングで勝つためには必要の無かったものなのだが。

この瓜田の行動原理は「ボクシングが好きだから」という理由に帰結している。自身はそんなことは一言も言わないが、周りの人間は瓜田の人間性からそれを感じている。小川は瓜田に対して「ボクシングに対してのひたむきさ」は絶対に敵わないと感じているポイントで、絶対的に信用している証でもあるのです。だからこそ「お前が負けることを祈ってた」という言葉は瓜田から絶対に出るはずのない言葉であって、ボクシングに対しての絶縁宣言(引退宣言)で、男としての敗北宣言あると小川にはすぐ理解できた。だからこそ、涙を堪えて「大丈夫です、わかってたんで」と、最大限の理解を示したのだ。「そんなことはわかっていたけど、それでも瓜田さんを尊敬していた」という、後輩としての熱すぎる感謝の想いを汲み取るともう涙腺大決壊。小川が背中ごしに帽子をとって敬礼するショットは本当に見事すぎて、涙で前が見えませんでした

 

つくづく人間って、エゴを剥き出しに出来る性格の方が幸せだと思いますよ。こういう瓜田みたいな性格って自分は共感できすぎて、胸が張り裂けそうでした。相手を思いやったり、道を譲ったりする自己犠牲精神って、一方では「それもエゴなんじゃないの?」と言われがちだけど、実は自分が本質的に弱いからなんですよ。利己的になれるほど強くない、だから何の見返りもなく他人に夢を託すこともできる。心の弱さと他人への優しさってリンクするところがあると思っていて、弱い人間なりの不器用な挑戦者として在り方ってのがあるんだよなぁ。

瓜田は決して勝者では無いかもしれないが、幾人もの人生を救ってきたのは事実。瓜田みたいな人間がいないとチャンピオンだって生まれない。赤コーナーに立つことはなく、いつでも挑戦者としての青を身に纏っている。

勝てなかったとしても、満足のいく人生だったと振り返られる生き方をしたい。瓜田みたいな人間になりたい!!!と強く思える、名作でした。

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ラストシーンの瓜田の姿は『はじめの一歩』オマージュを若干感じましたね。

 

気になったポイントも無いわけではなかったです。男のドラマだからと言って千佳を都合よく描きすぎてる気もするし、吉田恵輔監督の味なのはわかるけど今作においては楢崎パートのギャグ要素はちょっとノイズに感じたし、包茎手術の広告のモデルだって立派な仕事だと思うし、唐突な竹原ピストルの登場に混乱したし(主題歌担当してるとは知らなかったもので)、「ボディを避けて左フック」のところで回想シーンを挿入するのは別にいらなかったんじゃないかなぁと思ったり、成長した楢崎にはリング上でフリッカージャブを見せて欲しかったし(無茶な要望)。

 

それでも間違いなく吉田恵輔監督の映画の中では一番好きでした。今年はもうこれを超える映画が無いんじゃないかと思うくらい。

とにかくボクシング描写のリアルさは一級品でしたね。東出くんのフットワークは単純にすげえ!って思いました。かなり努力されたんだろうなと。とりあず、今度ジムにいったらボクササイズに挑戦しようと思いました。(怖くて参加したことがないのですが)


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きーぷ、うぉーきんぐ!!

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  • 発売日: 2021/03/17
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