SOUTH PARKの住人

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映画レビュー「未来のミライ」

未来のミライ」(2018年)


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★★★★☆

 

細田守監督作品の中で断トツの出来。
シンプルな題材をこれでもかというくらい丁寧に描いた、本気の一本。

 

※ネタバレあり

 

監督の作風は、ありふれたミクロな日常の中にSFファンタジー世界を見出だすというもので、藤子不二雄が提唱した「すこしふしぎ」的発想に近いものがあると思っている。

前作「バケモノの子」でもそのテーマを描きたいという意図は見えたが、冒険活劇的な要素がいかんせん話として面白くなく、最終的にどっちつかずになってしまっていた。
一方この「未来のミライ」はガラリと変わり、ことごとく無駄なものが削ぎ落とされ、「日常」から「ふしぎ」そして「家族」へと繋がる、まさしく監督の真骨頂である物語と言える。

 

本作におけるタイムスリップ描写は、「親が感じる子どもの突然の成長」にSF的な解釈を交えて描いたものである。それは「子どもって凄いね、いきなりパッとできるようになるんだからさ」という父親の台詞から見てとれる。作中で唯一はっきりと監督からテーマが示されている言葉で印象的だ。(また星野源の演技が上手い)

はっきりとは明言されてはいないが、実はそのタイムスリップ現象こそが、ひとつの家族の歴史と血脈を具現化したものであるということが語られる。

 

それは遥か昔曾祖父の時代から受け継がれてきた、遺伝子であり、想いであり、心である。
くんちゃん自身がたくさんの家族に支えられ育まれた存在であると気付き、次の世代である妹のミライを受け入れ、家族という名の大きな歴史の木の一部になっていく。そしてその意志はこの先も受け継がれ、新たな未来を紡いでいくであろうということを感じさせる美しいラストを迎える。

 

微細な感情の動きに説得力を持たせる作画は、これまでの過去作品と比べ全体的に丸みを帯びた優しいタッチになっているように感じる。くんちゃんの理解したのかしてないのかわからないポカーンとした表情が絶妙に良い。
幻想的な未来の東京駅、幾何学的な背景を鳥のように飛び回る二人など、芸術的であり叙情的な背景描写が散りばめられていて、味わい深い。

若干スベっているギャグや、監督の性癖と言われてもしょうがない狙った台詞などもあるが、1秒1コマたりとも手は抜いてるところはない。物凄く本気で作られた力作であることは間違いない。

 

台詞にもSF的なセンスが見てとれ、ミライの「これからうんざりするほど一緒にいるじゃん!」という別れの台詞がなんとも粋。でも4才のくんちゃんはきっとすぐ忘れてしまうだろう。そんなことを考えたら不覚にも泣いてしまった。
この作品のテーマにとても近いと感じたのはピクサーの「インサイドヘッド」だ。自分の中の記憶とも呼べないレベルの不確かな存在が、確かに自分を形作っている。そんな頭の片隅にある(あった)小さな不思議な感情を、大冒険に仕立てあげたのだ。

「覚えていないけど自分も昔、こんな経験をしていたのかもしれない」

そんな想いを馳せさせるファンタジー映画はすべからく素敵なのだ。

 

きっとこの映画を小さな子供に見せても理解できないだろう。ただこの話の伝えたいことを少しでもわかるようになったとき、大切な思い出を忘れてしまわないように抱き締めたくなるはずだ。未来のくんちゃんはそれを伝えたかったのだと思う。