「カメラを止めるな!」(2018年)
★★★★☆
日本の映画業界は低予算の自主制作のような作品が入り込む隙がほとんど無いに等しい。
たとえ上映となったとしたも、そもそものミニシアターの数が激減していて、東京や大阪ならまだしも、地方では観ることどころか知ることすら叶わない作品が数多ある。自分も大阪に住んでいた頃は第七藝術劇場に何度か足を運んでいたが、大阪ですらそういう映画館は少ない。上映する場所が無いとなってくると、製作に携わろうとする新しい芽も出てこない。アイデアを披露する場所も無くなる。そうやってどんどん悪循環に陥っているように感じる。
この「カメラを止めるな!」も、新宿K's cinemaと池袋シネマ・ロサの2館のみで細々と封切りとなったが、評判が評判を呼び、整理券即完の大盛況となる。これを見た配給会社のアスミック・エースが配給権を買い取り、一気に全国のシネコンへと上映が拡大した。
まさに昨今の日本においては異例中の異例と言える。今年の夏興行がパッとしなかったこともあるだろうが、シネコン側がいち早く上映に漕ぎ着けたのは大きかった。本来ならハリウッド大作や自社配給の作品を優先するのが定石なので、このような作品が入り込む隙はほぼ無いのだが、シネコン側も最近はだいぶ柔軟になってきているように感じる。
質の良い映画を、本当に観たい人たちへしっかりと届けることができるというのは、本当に良い傾向だ。本来、シネコンは複数のスクリーンを持つことで様々な作品が上映できることが強みだったはずである。ここに来て、久々にそれが生かされなと思った。
ただ、今回はネットや映画好き界隈での加熱っぷりが凄まじく強かったことと、大手であるアスミック・エースが配給権を取ったことが大きい。やはりまだまだ自主制作映画が入り込むには狭き門である。
しかし、映画=有名人が出ていて有名歌手の主題歌が使われていて予算をたくさんかけたものと刷り込まれてしまっていた昨今の時代の流れ対して、良い気づきのきっかけになったと思う。当たり前だが映画は芸術である。芸術とは他人と分ち合えるような美的な物体,環境,経験をつくりだす人間の創造活動,あるいはその活動による成果をいう。(コトバンクより)
決して芸能プロダクションの見世物の場であったり、タイアップアーティストの宣伝や、企業が流行らせたい物の広告で塗り固められたものが映画の全てではない。(もちろん良いものもあるが) そんなものが無くても、面白いものは面白いということがこの「カメラを止めるな!」には詰まっている。本作で映画の本来の面白さを感じた人はたくさんいると思うし、それはとても素晴らしい。有名なものが何一つ無くても面白いんだよ!
上田慎一郎監督も、この作品が与える影響をまた自身のモチベーションにされていると語っているので、素直に応援したくなる。
上田 結局、劇場のロビーとかで「映画を作るのはあきらめてたんですけど、もう一回やってみます」って言われたり、「私、陸上部でランナーになろうと思ってたのをあきらめてマネージャーやってるんですけど、もう一回ちょっと1年だけ選手として走ってみようと思います」とか言われたときが一番胸が熱くなるっていうのはあるんですよ。(中略) 人の現実を動かしたっていうことにすごく胸が動いてる自分はいますね。
本作が世間に受け入れられたことで、映画の本来持つ芸術としての面白さ、そして自主制作やワークショップでの映画製作が加熱すること、に期待したい。
全然映画の内容の話をしていない!!
まあ今さら自分がどうこう語るより、まもなくパッケージ化もされるので観てない人は早く観たほうがいいのです。
※一応ネタバレ
とりあえず、前半のワンカット撮影を5〜6回撮ったという、製作陣の努力に拍手を贈りたい。第2幕が始まったとき、「まさか、この冒頭のワンカットを"さらに別視点でワンカットで撮影していた"なんて人間離れした所業を成してんのか!?」と焦ったが、流石にそれはなかった。
勝手に期待しておいて勝手にちょっとガッカリしたのだが、後半までワンカットだといくらなんでも冗長だし、コメディとしての畳み掛けるスピード感と楽しさが失われてしまうだろうし、これで正解だったのは間違いない。文句なしに面白かった。
前半のワンカット部分は、意図してではあるが異常に退屈である。が、それによって映画が頭から最後まで全編面白い必要は無いということも思い出させてくれた。昨今はド頭からエンドロールまで飽きさせないノンストップムービーが正義だという風潮がある(自分もそういうのは大好物ではある)。
だが映画というものは、監督の伝えたいものが作品の中のここぞという場面でちゃんと描かれていれば、退屈な何気ないシーンも自ずと意味を持ってくる。本作はそんな映画の良さを分かり易く描いてくれている。個人的にそこが「カメラを止めるな!」の一番の肝であると感じた。
作中で語られる「どんな酷い状況であってもカメラを止めるな!」というメッセージは、「どんなつまらなくても観るのを止めるな!」に通ずる。「監督は最後まで演者を信じろ!」、そして「観客は最後まで映画を信じろ!」。そうして続けた先には、思いがけない感動が待っているかもしれない。
ちょっと深読みしすぎかもしれないが、作ることも観ることも同じ楽しさなのが映画の良さであるという、そんな監督の想いを受け取った。
久々にここまで熱い映画を観たな。上田慎一郎監督の次回作にも期待!本作に影響を受けた人々よ、この熱を冷ますな!
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