SOUTH PARKの住人

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「他者論」こそが真理か

久々に哲学の話。哲学者レヴィナスが提唱した「他者論」について考えてみる。

 

まずレヴィナスが唱える「他者」という概念がある。それはいわゆる「他人」を指すだけのものではなく、自分以外の全ての事象のことを示している。彼は、自分や友人を含めた、死というものを恐れた。しかしそれは死そのものが怖かったのではなく、人の死が訪れても何事も無いかのように続いていく世界という存在が怖かった。己にとっては死んでしまったら全て終わり…。それでも、存在し続ける世界って何だ?と。彼はその恐れのことを「イリヤ」(存在するという意味)と名付けた。レヴィナスは、死というものに全く無関心で機能し続ける世界に強烈な「他者」を感じたのであった。

 

そうして始まった「他者論」という哲学。それによって多くの哲学者が、絶対的に理解することが出来ない自分以外の「他者」という、周囲に無数に存在している非常に不愉快な存在に気づいてしまうのだった。

 

「私」と「他者」の間には、良好な関係は成立しない。「他者」とは、本来、「私」にとって不快なものであるからだ。サルトルは「他者」についてこう述べている。「他者とは地獄である」レヴィナスは「他者」についてこう述べている。「他者とは私が殺したいと意欲しうる唯一のものである」。

 

基本的に「他者」は、自分に対して意見、反論してくる不快な存在である。「ハンバーガーって美味しいよね」と思ったとしても「ハンバーガーを美味しいって言ってる奴は舌が馬鹿だな」と言ってくる存在がいる。その次には「ハンバーガーを美味しいよねって言ってる奴は舌が馬鹿だなって言ってるやつって性格悪いよね」という存在が現れる。他者とは、自分の考えを妨げてくるただただ厄介な存在であり、真理探究を生業としている哲学者にとっては、永遠に立ちはだかる壁であった。

現代において真理とは何か。一つ絶対に確実だと言えることがあるとしたら、それは、「私がどんな真理を持ち出して正しいと叫んでも、それを否定する他者が必ず存在すること」である。

この言葉を否定する人間が現れても、その人間がこの言葉を証明することになる。レヴィナスは1つの真理に到達したと言える。

 

しかし、このように考えることもできる。

「他者」とは、「私」にとって「意図」の確実な疎通ができない不愉快で理解不可能な対象であると同時に、だからこそ、「問いかけ」が可能な唯一の存在でもあるのだ。「他者」に「ホントウはどうなんだろう?」と真理を問いかけることにより、「新しい可能性」「新しい価値観」「新しい理論」を無限に創造し続けていくことができる。

 

つまり、「他者」が存在しなければ、自分の想いを伝える対象も存在しない。全てが脳内の自問自答の中で完結してしまう。そんな世界では、新しい発想も、知的好奇心も生まれないし、真理探究への意欲が無くなる。「他者」のいない世界のその先は無限の空虚が待ち受けるのみだ。どれだけ自分のことを否定され、それにより傷つくことになろうとも、人は「他者」という存在無しに何かを成すことはないのだ。

 

なんで自分は、仕事というストレスフルな作業を行い、敢えて不特定多数の者が渦巻く社会の真ん中に身を置くのか?と考えたときに、「他者論」に紐付いた。

自分には出世欲が無いし、大金持ちになってやろうという野望もない。それでもストレス発生源でしかない「他者」だらけの環境で働く理由ってなんだろう?と考えた。それはきっと「他者」に問いかけることによって新しい発想が生まれてくるという刺激、痛みを伴ってでも得たい快感、その欲求から逃れられないからなのではないだろうか?

「他者とは、私という存在を自己完結の独りぼっちから救い出してくれる唯一の希望であり、無限の可能性である」

コロナ禍の2ヶ月の自粛期間中、社会から断絶されていたとき、読書や映画に没頭してしまったのは、きっと少しでも他者のエッセンスを受け取りたかったからだ。

基本的に自分はぐうたらな人間だし、できればダラケて過ごしたいも思っている。それでも、仕事をするのは単に金や生活のためだけではない。「他者」に問いかけることによって得られる知的好奇心の創出、その実感に惹きつけられて、自然とそこに導かれているに過ぎないと悟った。

本来、うまくいかないはずの「私」と「他者」との関係(対話)を断絶させずに成り立たせている原動力とは、人間の「真理(ホントウ)を求める熱い想い」なのである。

ストレスという代償を支払ってでも「他者」と繋がって生きていく理由は、自分の欲求の中にあるのだろう。「他者」とは必ずしも自分を阻害してくるだけの忌むべき存在ではない。「他者」の存在こそが「私」の存在する意味でもあるのだから。

そんなアタリマエを改めて感じている今日この頃。哲学って本当に素敵ですね。

 

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参照・引用元はコチラ。哲学関連の本では間違いなくダントツで面白い。3年くらいずっと読み返している。